お仕置きファイル



序文 春への書簡 遠い春 校庭に吹く風 闇の重さ 旅立ち 熊野の熱い夏
 

 二人だけの通学路

 私とミユキは幼なじみ、家にいるとき以外は一緒だった。ミユキは体は小さいくせにとにかくお転婆で、いつも私をイジメっ子から守ってくれる。一年中短い半ズボンをはいて、近所の男の子を引き連れてはいろんな悪戯を考えている子だった。  
 学校では当然のように、担任の先生に目をつけられてクラスの叱られ役になった。4年生からの担任は中年の女の先生だったが、けんかをしたり悪さをした男の子を教室の前の黒板のところに並べて、バケツの蓋や竹箒で一人ずつお尻を叩く。その中に、女の子としてはいつもミユキだけが参加している。先生も手加減なしだった。バシッ!
「痛ぇ!」
「ミユキのお尻からはいつも埃がいっぱい出るなあ。教室が煙るじゃないの」  
 みんながどっと笑った。私も小さく笑ってミユキの方を見た。ミユキは痛そうに顔を歪めて、右の手のひらでお尻をさすりながら自分の席にもどっていく。いつもながらまったく悪びれたところはない。小学生も高学年になると、教室の前で先生にお尻をひっぱたかれるのは、女の子にとっていちばん恥ずかしいお仕置きのはずなのに。
「ビンタはイヤだけど。お尻なら、まあいいじゃん」  
 ミユキはそういう女の子だった。
 ミユキとずっとつきあっているうちに、引っ込み思案だった私の性格もだんだんと変わってきた。6年生になったいまでは、先生もクラスの子も、私がミユキのいちばんの悪戯仲間だと考えるようになり始めた。事実、悪戯の楽しさを私はミユキに教わった。

 ある秋の日。通学路にある神社の境内にミユキと私はいた。もう陽はとっくに落ちている。ふとミユキの方を見ると、何やら賽銭箱を覗き込んでいる。
「ミユキ、何やってるの?」
 ミユキが悪戯っぽく笑って言う。
「この百円玉、もらっちゃおうか」
「何言ってんのよ、ミユキ。泥棒じゃん」
「冗談だよ。でも手がどこまで入るかと思ってさ」  
 ミユキが賽銭箱の隙間に手を突っ込み始めた。
「ユリもやってみなよ。どっちが奥まで手が入るかな」
 私は胸がドキドキした。でもこのドキドキ感が悪戯のスリルなのだ。私はミユキにそのスリルの楽しさを、すっかり教え込まれてしまっていたのだ。
「やっぱユリの方が腕が細くて長いんだね。あたしより奥まで手が届くね」
「そうかなあ」
 その時、神主さんの声がした。
「君たち、そこで何やってるんだ?」
 落ち着いた静かな声だった。しかし、どう考えてもヤバすぎる状況である。
「あ、すみません。あたしたち、どこまで手が伸びるか、2人で競争してたんです」
 何言ってんのよ、ミユキは! 2人とも慌てて賽銭箱から手を抜いた。神主さんは怒らなかった。
「2人ともこの先の小学校の子だね。もう遅いから親御さんも心配してるだろ。私がおうちに電話しよう」
 私もミユキも名前と連絡先を言わされた。私たちの目の前で、神主さんは電話をかけ始めた。話の内容はよく聞き取れなかったが、神主さんは穏やかな表情をしていた。
「さあもう早く、2人とも帰りなさい。ご両親、心配してるぞ」
「はーい」
「ミユキ、帰ったらヤバいことになるね」
「今夜はお尻百叩きかも」
 ミユキのお母さんは厳しかったし、ミユキと同じで開けっぴろげな性格だったので、娘によくお尻叩きのお仕置きをしていることを私の母にも話していた。私の母は優しかったけど、今度ばかりはとても許してはもらえそうにない。私にはどんなお仕置きが待っているのだろう。

「ユリ、お母さんはほんと情けないわ」
 家に着くと、母は悲しい顔をして言う。
「ママ、ほんとごめんなさい。でも泥棒する気なんかじゃなくて、ほんの悪戯で、手がどこまで入るか2人で競争しようって」
「ママもその言い訳を信じたいわ。たとえそうでも、とても許されることではないわよ。さっきミユキちゃんのお母さんと電話で話しててね、2人とも同罪だから、あなたたち2人に同じお仕置きをすることに決めたわ」
 ミユキのお母さんと同じお仕置き? じゃあお尻叩きじゃん! でもしょうがないか。
「ユリ! そこの壁のところに両手をついて、お母さんにお尻を向けて立ちなさい!」
 母は決然と言い放った。こんな母を見るのは初めてだ。私は言われた通り壁に両手のひらをついて肘を伸ばすと、両足を少し開いて前屈みの姿勢をとった。少しでも従順な姿を見せて、母の怒りを和らげたかった。母は玄関から革の分厚いスリッパの片方を持ってきた。
「ユリ! 覚悟しなさい。いいわね」
 私は恐る恐る母の目をチラッと見て小さくうなずき、それから母の手にあるスリッパを見た。いまからこのスリッパの底が私のお尻に何発も、いや何十発も当たるんだ。私は覚悟を決めて壁の方に向き直った。ピシャッ! 初めて母にお尻を叩かれた。思ってたより痛いよ。ピシャッ! 息つく暇もなく2発目がきた。ピシャッ! お尻にどんどん痛みが積み重なっていくみたい。ピシャッ! 母は無言のまま一定の間隔で、私のショートパンツのお尻に水平にスリッパを打ちつけた。
 二十発ひっぱたかれたところで母は手を止めた。私も数を数えていたが、母も数えていたに違いない。これで終わりかしら。少し姿勢を崩そうとした瞬間にまた次の一打がきた。ピシャッ! 
「まだまだよ、ユリ。お仕置きは百発ずつってミユキのお母さんと約束したんだから」
 ピシャッ! やっぱりそんなに甘くなかったか。ピシャッ! もう最後まで耐えるしかない。だんだんお尻が痺れて熱くなってきて、一発毎の痛みには耐えられるようになった。ピシャッ! やっと終わった。私は火照ったお尻を両手のひらで覆いながら、崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んだ。
「どう? 少しは懲りた?」
 いつもの母の優しい口調に戻っていた。
「はい、ママ」
 私は少し甘えるように言った。
「これに懲りて、これからはいい子にするのよ」

 翌日、学校でミユキに会った。
「ユリもお母さんにやられたんだって? スリッパでお尻百叩き」
「そんな大きな声で言わないでよ」
 私は周りを見回した。ここは休み時間の廊下だ。私たちの会話に、すぐそばにいた女の子が振り向いた。ミユキのバカ! 聞かれちゃったじゃないよ。急にミユキは大事な内緒話をするように、私の耳元に小声でつぶやいた。
「目が回るほどひっぱたかれたでしょ。あたし、まだお尻がヒリヒリするよ」
「あたしもだよ」
 ミユキは左手で痛そうにお尻をさすっている。そんなジェスチャーしてたら、いくらヒソヒソ話してても会話の中身がバレちゃうよ、もう、ミユキは。

 この一件を機にして、先生や他の子の私を見る目が変わった。私たちの悪戯は知れ渡り、私はすっかりミユキの無二の悪友と見なされるようになったのだ。私たちは卒業するまで、授業中2人並んで教室の前の黒板に両手をつかされては、箒やバケツの蓋で先生によくお尻をひっぱたかれた。理由は授業中のおしゃべりとかで、何かにつけて私とミユキが続けて指名され、質問に答えられず先生の話をちゃんと聞いていなかったことがバレてもお仕置きだった。
「ミユキのお尻は相変わらずよく埃が出るわね。ユリのお尻はそんなでもないのに」
 私たち2人だけには先生は明らかに男の子扱いしていた。ミユキの方はそれでもあっけらかんとしていたが、私は恥ずかしいよ。

 中学生になった。そこではさらに厳しいお尻の体罰が私たちを待っていた。ケツバットと呼ばれる体罰が日常化しているうえに、私たち2人の小学生時代の行状は、生徒たちの口からほどなく先生たちに伝わった。そして私の母もミユキのお母さんの影響を受けてか、いまではすっかりお尻の体罰肯定派になった。1年の担任は40代の男の理科の先生だ。いかにも厳格そうで眼鏡をかけて恰幅がよく、腕っぷしも強そう。その先生はこう言った。
「君のお母さんも厳しいね。遠慮しないでビシビシしつけてやってください。でも女の子ですから、叩くときは顔ではなくて、お尻にしてあげてもらえますかって言われたよ。君は相当お母さんを困らせたな」
 早速、宣戦布告だ。私とミユキは防衛策を考えた。お尻の痛みを少しでも和らげるために、いつもスカートの下にブルマーをはくことにしたのだ。それでもケツバットに使われる道具は細い竹の棒や厚くて平たい板きれなので、小学校のお仕置きよりはるかに痛い。だいいち、お尻を叩かれる音からして大きくて廊下まで聞こえてしまうくらいだ。
 ミユキは相変わらず遅刻や忘れ物の常習犯でクラスの叱られ役になった。自然、私まで注目されてしまう。私とミユキは名字が似ているので、出席番号が隣同士、だから理科室でも席が隣になる。ミユキは授業中でも平気でしゃべりかけてくるし、返事を返せば2人でお仕置きを受けることになるのだ。まずミユキが、理科室の教卓の横のところに両手をついてお尻を突き出す。私もこれからあんな無様な格好させられるんだわ。私は目の前で、ミユキのお尻の真ん中に竹の棒が当たる瞬間をじっと見ていた。大きな音とともにお尻が前後に小さく揺れ、竹の棒が少し跳ね返る。恐怖で体が凍り付く。
「痛ぇー!」
 いつものように悪戯っ子のようなミユキのリアクション。顔をしかめてミユキが自分の席に戻っていく。自分もあの場所にすぐに立たなきゃいけない。
「ユリ、何してる! 早くそこに両手をつけよ!」
 いけない、早く教卓に両手をついてお仕置きの姿勢をとらないと。態度が悪いって度鳴られて、よけいに力を込めてひっぱたかれてしまう。先生が私の背後に回った。教室がまたシーンとなる。ピシッ! 突然、竹の棒がいやになるくらい正確に、私のお尻の真ん中に当たる。
「痛っ」
 私はなんとかやせ我慢しようとしたが、あまりの痛さに小声でつぶやいてしまった。うつむき加減でお尻に手の甲をそっと当て、私は自分の席に戻った。

 休み時間、男子がミユキを冷やかしていた。
「ミユキ、お前はほんと男だな。教室の前に出てくときだって、椅子は出しっぱなしでバタバタと。その点、ユリはちゃんと女の子らしく椅子を机の下にしまってから出てくよな」
 私の方に話振らないでよ。恥ずかしいじゃん。
「どうでもいいでしょ、すぐにもどってくるんだから」
「それに痛ぇ、痛ぇって大騒ぎして、悪ガキかよ。ユリを見習えって。ユリは小声で『痛っ』だもんな」
「ユリはやせ我慢してるだけなんだよ。ねえ、ユリ」
「う、うん。まあ」
 私は平静を装って生返事をした。お尻の火照りが伝わったかのように、冷たかった木の椅子の座面が熱くなっている。ミユキの椅子の座面もきっとこんなふうに熱くなっているに違いない。

 2年生になって担任をはずれてからも、理科の先生の私たちへのお仕置きは続いた。忘れ物をしても宿題を怠けても、ばれれば教室の前に呼ばれてお尻をひっぱたかれる。私とミユキは毎時間必ず何度も指名されるので、何か忘れていれば一発でばれる。教科書を読めと言われて違う箇所を読み始めてしまい、授業をちゃんと聞いていなかった罰としてお仕置きされることもあった。
 私はだんだん免疫ができてきた。もう叱られ役でいいや、ミユキのそばにいる限り目立っちゃうんだから仕方ない。2学期頃になると前ほどの抵抗感はなくなり、教室の前でも先生の方に向けて素直にお尻を突き出して立てるようになっていた。
 ところが、今度はミユキの方がおかしい。お尻ならいいじゃんって言い続けてたミユキが、何か恥ずかしそうな仕草や表情を見せることがある。もしかして、お年頃? そう、同じクラスに好きな男の子ができたのだ。

 ある日の放課後、私はミユキに呼ばれた。
「ねえ、ユリ」
「何よ、もったいぶって」
「キスしたことある?」
「えっ?」
 私もミユキも、次の言葉をしばらく探していた。
「この間の放課後、部活が終わってからさあ。M君と一緒に帰ったんだよ」
 ミユキがM君とつきあい始めていたことは私も知っていた。
「そしたら塀の陰のところで、いきなりキスされそうになって」
「ミユキ、どうしたの?」
「ひっぱたいちゃった」
「ああ、ミユキらしいわ」
「でもなんか、後味が悪くてさ。次の日、M君に謝ろうかと思って」
「へえー、それで?」
「そしたらさ、あたし、M君にやり返されちゃった」
「え、ひっぱたかれたの? 最低」
「違うよ、ビンタじゃなくてさ」
「ビンタじゃない? じゃ、どこをひっぱたかれたの?」
 ミユキがいかにも恥ずかしそうに言った。
「お、し、り」
「何それ」
「でもあたし、それで何だか気が楽になったんだよ」
 ミユキが真顔で言う。
「ふーん、で、キスしたの?」
「それがさ、なんか冴えないんだよね。いきなり歯と歯がぶつかってカチみたいな音がして」
 私は正直悔しかった。あんなにみんなに男の子扱いされてたミユキに、キスで先を越されるなんて。でも考えてみれば、ミユキは顔も可愛いし、小柄でショートパンツが似合って、ちょっとつっぱってるけどそれもまたいいと思う男の子がいても不思議じゃなかった。

 私たちは3年生になった。私とミユキは同じクラスのままで、M君は別のクラスに。そしてあの怖ーい理科の先生が学年主任になり、私たちの進路指導に当たることになった。私とミユキの家にも早速やってくる。親子面談をするのだ。うちは私と母と先生の3人だ。
「ユリさんは、もうちょっと頑張らないと志望校に入れませんよ」
「そうなんですか?」
「いや、もともとできるお子さんなんです」
「努力が足りないということですか? 先生、どうかもっと厳しく躾をお願いします」
「学校でも厳しく指導していますが、ご家庭の方でも」
「はい。ユリ、先生にいつもご迷惑おかけしてるんでしょ? 何か言いなさい」
 私は母を見て、それから先生を見た。
「先生、すみません」
 私はペコリと頭を下げた。
「ユリ、言うことはそれだけ?」
 母が私を睨むようにして言う。
「あの、先生、もっと厳しくしつけてください」
 私はそう言った。というか、言わされた。
「わかった。先生もこれからはビシビシやるぞ」
 いままでのはビシビシじゃなかったの?
「それがユリのためなのよ。よかったわね」
 母は嬉しそうにそう言い、先生は満足そうにして帰っていった。ミユキの家でもだいたい同じだったみたいだ。お母さんはもっと厳しい躾をと言い、先生がうなずき、ミユキはもっと頑張りますと言わされた。 

「ミユキ、ユリ、2人とも前に出ろ!」
「は、はい。先生! またお仕置きですか?」
 ミユキが言った。
「お前たち、何だ、このノートは。真っ白じゃないか! 宿題はどうした? お母さんとの約束は覚えてるな」
「は、はい。躾はもっと厳しく、ですよね」
 私はそう言うと、前の黒板に両手をついて前屈みの姿勢をとった。隣を見ると、ミユキがちょっとふて腐れたようにして、私より少し遅れて黒板に両手をついた。先生がミユキの後ろに立った。1メートルの定規を手にして、素振りの真似をしているみたいだ。なかなか叩かれないミユキがついに焦れてフライングした。
「痛ぇ!」
 そう言って、叩かれたときのリアクションをしてみせた。
「まだ叩いてないぞ」
 先生の言葉に教室中がどっと沸いた。また仕切り直しだ。隣でずっとお尻を突き出して立っている私の身にもなってよ、ミユキ。いつまでこんな格好してなきゃいけないの。でもなんだか、私もミユキの性格が移っちゃったよ。ちょっと痛いけど、まいいか、お尻なら。ねえ、ミユキ?







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