お仕置きファイル



序文 春への書簡 遠い春 校庭に吹く風 闇の重さ 旅立ち 熊野の熱い夏
 

  わが家の事情


 新しい母がわが家にやって来たのは、私が中1の時だった。母には小4の実の娘がいた。私は母と妹ができることを素直に喜んでいた。幼稚園入園前に実の母とは死別していたし、一人っ子の私には、学校から帰っても話し相手はいない。家族ぐるみでの数年間の交際の後でもあり、妹も私に懐いてくれていた。
 新しい母は優しくて、厳しい人だった。私のことを妹と分け隔てなく優しく可愛がってくれる、それは子供の直感として前から感じていた。でも女手一つで幼い娘を育てていくには、優しいだけではだめだという思いがあったんだと思う。妹は物心がついた時から、決まり事を破ると必ずお仕置きとしてお尻を叩かれていた。妹には強情なところがあり、ちゃんと反省して謝るまでピシャン、ピシャンと平手でひっぱたかれるのだという。私はと言えば、親に怒られたことを知らない。家事もやらなければいけなかった私には、悪い子になっている暇はなかった。父も私を早くから一人前扱いにしてくれた。

 妹が口げんかして初めてわが家で母にお尻をひっぱたかれたのは、新生活が始まって1週間ほどした頃のことだ。私の目の前で母は大声で妹を叱りつけた。居間のソファのところで妹を捕まえて俯せにして膝の上に乗せると、母は妹のスカートをめくってピシャッ、ピシャッと無言でそのお尻に平手打ちを始めた。暴れていた妹がだんだんとおとなしくなっていく。それでも母は、その手の力を緩めようとはしなかった。もう一度妹の体を手繰り寄せると、お尻を両膝の真上に乗せる。ピシャッ、ピシャッ……。妹が「ご免なさい」と泣きながら謝るまで、お仕置きは続いた。
 私は金縛りに遭ったようにびっくりしながら、一部始終を見届けた。その気持ち、何て表現すればいいんだろう。妹が、可愛いなと思った。その時、妹がめくれたスカートの裾を引っぱりながら母に言った。
「ママ、お姉ちゃんが口答えしても、お仕置きするの?」
 母は一瞬、戸惑っているように見えた。がすぐに、母親の威厳を取り戻した口調になった。
「当たり前でしょ。Y子は、私の娘なんだから」
 妹は一瞬、私の方を見てちょっと悪戯っぽく微笑んだ。

 新学期が始まり、私は中2になった。もういままでのように家事の心配をしなくても済む。放課後や休日も、これまで遠慮がちだった友達の誘いが増えた。頑張ってきた緊張の糸が、自分の中で切れ始めていた。それでも父に余計な心配はかけたくなかったので、母に課せられた厳しい門限も守っていた。
 妹の方は、相変わらず奔放だった。何度も私の目の前で母に捕まえられてはスカートをめくられ、竹の定規やスリッパでもピシャピシャとお尻をひっぱたかれていた。それでもお仕置きが済めば、妹はそのうちに母に甘えだし、母も妹を受け入れる。やっぱりほんとうの親子なんだなと思った。私はまだ、肩に力を入れすぎているのかもしれない。

 その日、私は初めて母との約束を破ってしまった。友達の家で遊んでいて、門限の時間を忘れてしまったのだ。先に気づいて心配してくれたのは、友達の方だった。
「Y子、お母さん、厳しいんでしょ? ヤバくない?」
 私は時計を見てびっくりした。門限の7時にはもう間に合わない。いままでこんなこと、絶対なかったのに。私は青くなって友達の家をあとにした。私、どうなるんだろう? お仕置き? 妹が泣きながらお尻をひっぱたかれている光景が目に浮かんだ。いいわ、なるようになれ、よ。私は妙に胸が高鳴っていた。母は妹の目の前で、中2の私のお尻をひっぱたくのだろうか。その前に、まずご免なさい、か。言い訳はしない方がいいかな。
 上の空でバスに揺られ、知らないうちに私は、もう家の門の前に立っていた。

 ドキドキしながら呼び鈴を押した。
「はい」
 母のやや甲高い声だ。
「私、Y子」
 玄関の鍵のカチャカチャ鳴る音が聞こえた。ついに扉が開いた。
「お母さん、ご免なさい」
「早く上がりなさい」
 私が靴を脱ぎ始めた時、母は玄関に立て掛けてあった竹の靴べらを手に取った。
「お母さん、お仕置き?」
 私はその靴べらを見ながら恐る恐る聞いた。
「その壁のところに両手をつきなさい。早く!」
 母にためらいはなかった。私が約束を破ったのだから仕方がない。言われた場所に両手をついて、壁を見つめた。バシッ……。痛っ。生まれて初めてお尻を叩かれた。お尻って、こんなに痛いの? 私は思わず叩かれたお尻を両手のひらで包むようにして振り向いた。
「まだ1回しか叩いてないわよ」
 母が冷静な口調で言った。私はまた、もとの姿勢をとった。バシッ。今度はさっきより下の方に靴べらが当たった。バシッ。今度は上の方。バシッ。だんだんお尻全体が痺れて熱くなってきた。10発ひっぱたかれたところで、母のお仕置きは終わった。
「これから気をつけなさいね」
「はい!」
 お尻は痛くなったけど、私はなんだかさっぱりした気分になっていた。

「お姉ちゃん、お尻、凄い音してたよ」
 妹がわざと真顔でいう。心の中では笑っているくせに。
「もう。あんただっていつも、家中に聞こえる音がしてるわよ」
 私は妹と、この時ほんとうの姉妹になれたような気がした。これでよかったんだと思う。もし母にお仕置きされていなければ、私はきっと淋しい思いをしていただろう。いえ、私は心のどこかで、この日が来ることを望んでいたのだ、きっと。私も母も、一つの壁を越えた気がした。
 この日のお仕置きのことは、その夜、父にも伝わっていた。妹がしゃべったのだ。
「Y子、痛かったか? 母さんは、お前が可愛いんだよ」
「パパ、わかってる。私が悪かったんだから。最近、なんか気が緩んできちゃってさ」
 私は努めて明るく答えた。父の表情も晴れやかになった。
「そうか。Y子とお母さんに任せとけば、大丈夫だな」

 私は中3になった。もう母のお尻叩きのお仕置きにも慣れた。門限もときどき破るようになったし、平気で口答えするようにもなっていた。もっとも、妹は私よりも数倍叱られ、厳しくお仕置きされていた。
 妹は相変わらずスカートをめくられて、母の膝の上でピシャン、ピシャンとお尻を平手打ちされていた。私は壁や机に両手をつかされて、スカートやショートパンツの上から竹の靴べらや籐の布団叩きでもひっぱたかれたりした。凄く痛いし、妹の目の前ではなおさら恥ずかしい。でも逃げ出したい気持ちの半面、母の愛情を確かめているような自分に気づく。
 わが家で何度も見てきた妹のお仕置き。母に叱られては思い切りお尻をひっぱたかれて、「ママ、痛かったよ」っていつも後から甘えていた妹。その妹と、同じことをいま私もしている。
 私はもうすぐ高校生、妹は中学生だ。母は私に言った。
「高校を卒業するまでは、厳しくしつけるわよ。でもお尻叩きはそろそろ卒業にして、春からは正座の罰にしようかしら」
 私は正座が苦手だった。それにお尻叩きの方が、短い時間で済む。私は即答した。
「どうせお仕置きされるんなら、いままで通りでいいよ」
「あたしは、正座の方がいいかな」
 そう言う妹を、母は遮った。
「あんたはまだ子供丸出しなんだから、お尻で十分」
 そう、いまのままがいい、いまでしか体験できないことなんだから。そう私は思った。私は母のことが好きだし、尊敬している。







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